あなたは、「火育」という言葉をご存知ですか?
「火育」とは、火を使う体験を通して脳を活性化させ、豊かな人間性を育むことです。子どもだけではなく、全世代を対象にしています。
数十年前は、自宅の庭や家庭用の焼却炉で、燃えるごみを燃やしていました。その頃の子どもは、ごく普通に手伝っていたので、 火の怖さや扱い方を体得していました。
ですが、現在は自宅でゴミを燃やすのは禁じられ、オール電化が普及した影響もあり、火の扱い方を知らない子どもが増えているそうです。
お母さん世代の中にも、マッチの火を風から守ることを知らない人もいるとか。
あの震災の時、集めた木材に火をつけて暖を取ったり、料理しているシーンを見ました。
小枝や紙など、燃えやすいものについた火を木材に移し、木材の量で火の大きさを自在に操っています。
そのように、私たちの世代は火の扱い方を心得ています。
でも数十年後、もし災害が発生した時に、火の扱い方を知らない人ばかりだったら?
ただ救助を待つことしかできないかもしれません。
そう考えると、火育の大切さを実感します。
ところで、料理することが脳に良いことはご存知でしょうか。
献立を考えて、沢山の商品から良いものを見分けて買って、持ち帰って料理する。
栄養・彩り・量・盛り付け方を考えるなど、頭も体も使うので、物忘れが気になる方のリハビリにも役立てられているそうです。
「脳を鍛えるシリーズ」でおなじみの川島隆太教授によると、火を扱う行為は、前頭前野を活性化させることが分かっているそうです。
火を使うことで、より人間らしい脳が育つのではないかと、現在研究中のようです。
今回、この記事を書くきっかけになったのは、知り合いに、ある話を聞いたからなんです。
ある夜、知り合いの小学生の子どもたちが花火をしたいとせがみました。
上の子は6年生なので、知り合いが「あなたが責任者になって、2人で花火をしてみてごらん」 と言いました。
上の子は、バケツに水を汲んでマッチに火をつけました。炎をロウソクに移そうとするのですが、なかなかうまくいきません。すぐに消えてしまうんです。
マッチの角度を少し変えるだけで、火は長持ちするのですが、彼女はそれを知りませんでした。それに、先端の炎が軸に伝わっていくのが怖くてたまらなかったんです。
知り合いがお手本を見せると、「うわあ、火が消えない。上手だねえ。」と感動していました。
花火が終わった後も、「火ってきれいなんだね・・・」と、揺らぐ炎に見入っていました。
そこで知り合いは、下の子にもマッチを使わせてみることにしました。
触ることを許されていなかった下の子は、お姉さん気分で大張り切り。
下手なつけ方をしてちょっとヤケド(熱かった)をしたんですが、泣き言も言わずに再挑戦。
納得のいくまで練習できたので、満面の笑みを浮かべていたそうです。
反対に知り合いは、火育をしていなかったことに気づいて猛反省。
火を扱う時の服装や注意点など、いろんなことを話し合いました。
これからも、親の目が届くうちに、できるだけ火を扱う体験をさせるそうです。
人類は、80万年以上前から火を使っていたそうです。
でも、ほんの200年前までは、火を起こすのに大変な労力が必要でした。
そのため、一度起こした火を絶やさない工夫も生まれました。
そんな火起こしを簡単にするために、最初にマッチが考案されたのは1827年。
日本でマッチの生産が始まったのは、1875年。
それまで輸入品を使っていたのですが、小箱1個の値段は、米6kgの値段と同じくらいと、超高級品だったそうです。
ですが、現在ではマッチの出番は激減しています。
動物とヒトとの決定的な差は、火を扱えるかどうかだといいます。火を扱えないヒトは、扱えた世代と比べて、ひょっとしたら退化しているのかもしれません。
住まいは、機能面ではどんどん進化しています。ただ、感性を鍛えるという面では、進化しているとは言い難いかもしれませんね。
その中で、次の世代に『火』の恩恵や災いをどう伝えるのか。生きるために大切なことですから、一度しっかり考えたいものだと思います。
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