著者 清水 昭三
価格 1944円
出版社 アルファベータブックス
芭蕉十傑の一人・各務支考に見出され、代表作「朝顔や つるべ取られて もらい水」などを詠んだ女流俳人、千代女の軌跡。 今、甦る江戸期の花の俳人。「女芭蕉」と称され、朝鮮通信使に21句を贈物した歴史的女性の生涯! 松尾芭蕉十傑の一人・各務支考に見出され千代女(1703-1775)。代表作「朝顔や つるべ取られて もらい水」「月も見て 我はこの世を かしく哉」などを詠んだ女流俳人の軌跡。伊勢派俳壇の中心人物・乙由とのロマンスや芭蕉と弟子たちの人間模様が鮮やかに甦る。晩年には与謝蕪村の句集『玉藻集』の序文も手がけている。太宰治の短編や落語の三代目桂三木助の「加賀の千代」に取り上げられた千代女の知られざる人生を描く歴史物語。 「…むかし加賀の千代女が、はじめてお師匠さんのところへ俳句を教わりに行った時、まず、ほととぎすという題で作って見よと言われ、早速さまざま作ってお師匠さんにお見せしたのだが、お師匠さんは、これでよろしいとはおっしゃらなかった、それでね、千代女は一晩ねむらずに考えて、ふと気が附いたら夜が明けていたので、何心なく、ほととぎす、ほととぎすとて明けにけり、と書いてお師匠さんにお見せしたら、千代女でかした! とはじめて褒められたそうじゃないか、何事にも根気が必要です、と言ってお茶を一と口のんで、こんどは低い声で、ほととぎす、ほととぎすとて明けにけり、と呟つぶやき、なるほどねえ、うまく作ったものだ、と自分でひとりで感心して居られます。お母さん、私は千代女ではありません。なんにも書けない低能の文学少女、炬燵にはいって雑誌を読んでいたら眠くなって来たので、炬燵は人間の眠り箱だと思った、という小説を一つ書いてお見せしたら、叔父さんは中途で投げ出してしまいました。…」(太宰治の短編『千代女』より)